エアコンのない昔ながらの八百屋
『本陣』
パッシブデザインで建てる!
思いとニーズに育暮家のパッシブデザインで応える
暑ければ暑いなりに、寒ければ寒いなりに、昔ながらの八百屋と考えた店づくり。 創業80年の老舗八百屋『本陣』が今年6月にリニューアルオープンしました。従前は木造の2階建住宅を買改造した瓦屋根のお店でした。土とコンクリートの土間、瓦葺き土がいっぱいの屋根は耐震的な不安を抱える一方、夏の暑さを和らげる効果があるつくりになっていました。昔ながらのエアコンなしで営む八百屋をこのつくりが支えていたのかもしれません。設計の段階で建主本陣さんが良く口にしていた言葉が”昔ながらの八百屋”でした。近年、野菜は生鮮食品の仲間として温度管理され、寒いとさえ感じる売り場に並ぶことが多くなりました。そんな時代に自然な温度の中で野菜を売る、これこそが旬をお届けする本来の八百屋ではないかと思います。そしてお客様と保存方法や調理の知恵、選び方等のやりとりを通して、野菜をおいしく食べていただく。それが暑い時期は暑いなりに、寒い時期は寒いなりを心地よしとされるお客様の心を引き寄せてきた八百屋本陣の魅力ではないでしょうか。こうした思いが通じ合いお店づくりの共同作業は進みました。 新店舗への想いをご主人は「野菜は自然の環境で育っていますので、なるべくそのまま、無理に傷まないようにするのではなく、傷む前にお客様に提供できるよう努力することが大事だと思います。お店に訪れていただいたお客様には、道端の延長のようにお店を楽しんでいただきたいと考え、なるべくオープンに、昔ながらの八百屋らしく元気に明るいお店にしたいです。」「まあ私たち自身、冷房が苦手ということもありますが(笑)。」気兼ねない関係づくりと愛されるお店づくりはお客様をほっこりさせてくれます。新装オープンに少し不安を感じながらお客様を迎えたのは店主の由夏子さん、「よかった。今までと変わらないわね。もし変わってしまったら来なくなったかもよ」とのお客様のひとことにほっと胸をなでおろしたそうです。 【建て主の要望】 「前のお店のようにエアコン無しで営業したい」「野菜果物は高温に弱いので夏を中心に考えたお店にしてほしい」 八百屋『本陣』のお店の人気の基本は商品も売り方もお店もナチュラルであること。 【設計の基本方針】 ■その要求にパッシブデザインの手法で設計を進める。 応用するのは「遮熱」「排熱・熱移動」「通風」「蓄涼採涼」「採光」「断熱」■ ■八百屋本陣のコンセプトとマーケティング戦略を設計に反映する■店舗内の温度上昇を如何に抑えるかに対し
・屋根からの日射熱の侵入を押さえる(遮熱断熱) ・大きな南側開口による日射侵入を押さえる(軒、のれん、よしず) ・敷地方位のずれを活かす(太陽高度、日の出・日没方位) ・全面道路からの輻射熱を押さえる(既存井戸水利用ミストと小川) ・東西の強い日差しを押さえる(隣家、干渉空間活用)
如何に熱移動をスムースに行い蓄涼採涼を生み出すかに対し
・常時開放出来る高窓の活用 ・外壁の無断熱化 ・夜間の熱移動を誘導する(高窓とシャッター下部溝活用) ・既存井戸水の最大限の活用(小川、屋根散水、水桶)
如何に通風採光を確保するかに対し
・温度差で風を生み出す工夫(井戸水利用屋根散水) ・風の出口を多く作る ・ウインドキャッチャー ・高窓 ・天井反射の工夫
■設計で狙った閉店時の熱の移動と開店時の温熱結果を真夏日の実測で確認した。
開店中は屋根遮熱と高窓効果で外気温-5℃に押さえられています。
閉店した後は外気温の低下と共に店舗内の温度が下がっていきます。
高窓からの冷気誘導と外壁無断熱の熱意移動効果が現れている。
閉店中はシャッターが閉まっているので夕方は室温がやや上昇するがすぐに外気温の影響を受けて下がっていく。
■①の高窓付近と②売り場の温度にはほとんど差がなく店舗内は均一に近いと思われる。
開店前、閉店後はシャッターを閉めたまま準備、片付け作業の為に約1時間お店の方は店内に留まる。
その時にもシャッターを閉めたことによる温度上昇はない。
ただ、閉店日はシャッターを閉めた影響で午後温度上昇がみられるががわずか。
スチールシャッター部分からも熱の移動がうまく出来ている。