2019.08.07.水 ハイホームスHP連載コラム 21世紀の住まい 第12回(最終回) 野池政宏

21世紀の住まい

 

このコラムのタイトルは私が考えました。様々な社会的状況、住宅業界の状況が変化する中で、現実を踏まえながらも「21世紀の住まいはこうなってほしい」と私が思うところを書いてみようと思ったからです。そしてそれを書くことで、これを読んでくださる「これから新築やリフォームを考えたい」「育暮家ハイホームスのことをもっと知りたい」と思っている一般の人、何らかの理由でこのコラムを目にした住宅建築関係者、そして育暮家ハイホームスのスタッフのみなさんに「これからの日本の住まい」を考えるときのひとつの参考にしてもらおうと思いました。

これまでなかなか思うように書けず、育暮家ハイホームスのコーチである杉村さんに「そろそろ最後にさせてください」とお願いをし、了解を得ました。最後は「これまでずっと頭の中にあったこと、そしていま頭の中にあることのほぼ全部を書きたいと思います。もちろん細かい話は書けませんが、私が考えてきたことや考えていることはお伝えできるんじゃないかと思います。

 

杉村さんと育暮家ハイホームス

私が杉村さんと出会ったのはもうずいぶん前になります。育暮家ハイホームス(当時は「ハイホームス」という社名でした)がずっと関わってきたOMソーラーに私も関わるようになり、その関係のイベントか何かでお会いしたのが最初だったと思います。そうしたご縁の中で、それまでハイホームスのパンフレットなどの仕事をしていたデザイナーに連れられてハイホームスの事務所に行き、杉村さんとじっくり話をすることになりました。私が何のためにハイホームスに行ったのかは正確には覚えていないのですが、とにかくハイホームスの業績を上げるためのお手伝いに行ったという記憶は確かです。

当時私は「省エネ住宅のためにパッシブデザインを全国に広めたい」と考え始めていたところでした。またそうした技術的なことだけではなく、工務店の業績を上げるための「CM的なお手伝い」もよく手掛けるようになっていました。ついでに私のことに触れれば、私のように、技術を軸にしながら工務店のCM的なお手伝いをするという会社や人はその当時も今もあまりいないように思います。

さてそのとき杉村さんは「これからのハイホームスをどうすべきか?」という根本的な課題を抱えておられました。一方私は、どんな工務店に行ってCM的なお手伝いをするときも「その工務店が持つ本質的なもの」を探ることから始めます。それがつかめないと的確な仕事ができないからです。そうした杉村さんの状況と私のやり方が合ったのでしょう、杉村さんから「ハイホームスを設立した動機や思い」「ハイホームスの家づくりに対する杉村さんの思い」「OMソーラーのこと」「ハイホームスの歴史や業績の変化」「工務店という会社の存在意義と工務店が抱える問題」といった話をまずはじっくりとお聞きし、モデルハウス、建築途中の家、OBさんの家、大沢ビレッジなどに連れていってもらい、そこから「ハイホームスのこれから」を探る議論が始まりました。

そして私から「静岡県でイチバンのパッシブデザインができる工務店になることを目指すべき」という提案をし、ハイホームスの本質を表すものとして「本当に大事なものを残していく住まい」というコピーを提案しました(いま、このコピーは少し変更された形で使われているようです)。

杉村さんらしくすぐに返事はなかったのですが、その後「野池さん、それで進もうと思います」という明確なお返事をいただきました。

杉村さんがどこまで自社評価をされているかはわかりませんが、日本でパッシブデザインが普及していく中で(実際、ものすごい勢いで普及しています)、ハイホームスが果たした役割は非常に大きなものがありました(そうしたパッシブデザイン黎明期の同時期に広島のエヌテックという工務店が真剣にパッシブデザインに取り組むようになり、この2社がパッシブデザインの普及に大きな役割を果たしたと思っています)。

2011年に立ち上げた1985にも深く賛同・ご協力いただき、いろんな機会でお会いすることが多くなっていったのですが、あるとき杉村さんから「野池さん、事務所を移そうと思っている」という話が出ました。聞くと「これからのハイホームス、これからの工務店を考えると、リフォームにシフトしていくしかないと思う。パッシブデザインもからめたリフォームのモデルハウスと事務所をつくりたい。そしてもっとこの地域に開いた会社にしたい」ということでした。

私はその以前から「最後の自分の仕事はリフォーム」と考えていて、杉村さんを含めいろんな機会で「本質改善型リフォームをやろう」と呼びかけていました。また、そもそもハイホームスはリフォームで始まった会社だし、日本住宅リフォーム産業協会(ジェルコ)にもずっと前から参画しているということもあって、こうした考えに至ったのだと思います。

こうした杉村さんの意見に手放しで賛成し、併せて杉村さんから「誰か設計で手伝ってくれる人を紹介してほしい。米谷さん(米谷良章設計工房)に来てもらえたらうれしいんだけど」という話もあり、昔からの友人でもある米谷さんをご紹介してこの事務所移転プロジェクトが始まりました。

こうして生まれた「むぱす」という場所は、まさしく「21世紀の住まい」「これからの工務店のあり方」を示していると思います。だから私は会う人会う人に「とにかく一度むぱすに行こう」と呼びかけています。

また最近になって社長を寺坂さんが引き継ぎ、杉村さんは「コーチ」になりました。工務店の社長の引き継ぎ問題は日本全体が抱えている大きな課題です。ほとんどの工務店は戦後の高度成長期と一緒に発展してきましたが、その発展を支えた2代目や3代目、創業者が現役を退く年齢になっています。生き残ってきた工務店社長の多くはその個性で会社を引っ張ってきたので、それを引き継ぐのは大変なことです。また、多くの社長は「成功体験」を持っていて、いまの「衰退する住宅市場」にうまく適応できない状況が生まれつつあるタイミングでもあります。

そういった意味で、育暮家ハイホームスにおける継承は良い意味でかなり特異的なものだと思います。そして杉村さんが「コーチ」というネーミングの立場を選んだことにセンスの良さを感じます。ほとんどの場合、「社長は会長になる」というパターンで、結局のところ実質的な決定権は会長が握っています。それでは継承したことにはなりません。

もちろんまだ継承したばかりで、今後どうなっていくかはわかりませんが、育暮家ハイホームスのこうしたパターンが成功を収めることができれば、ひとつのモデルケースとして社会的な価値があります。ついでに言えば、これまでも、そしてこれからも「杉村さんの奥さん」の存在がとても大きいと思います。「育暮家ハイホームスらしさ」と「寺坂さんらしさ」を融合した、次の育暮家ハイホームスがとても楽しみです。

ということで、「21世紀の住まい」をつくる「21世紀の工務店」のひとつの像として、育暮家ハイホームスがあると思っています。種を明かせば「21世紀の住まい」というタイトルをつけたのは、「育暮家ハイホームスがひとつの21世紀の工務店像」という思いがあったからです。

 

家づくりを考えている一般の人にどういう情報を出すべきか?

私の仕事人生において、これがずっと課題でした。一般の方向けの本も結構たくさん出してきたし、一般の方向けの講演もしてきましたが、本当にしっくりきたことは一度もありません。その理由を書けば次のようになります。

・家づくりに関する情報は膨大で、その一部分を伝えたとしても「満足する住まい、納得する住まい」になるかどうかはわからない

・その一部分の情報にしても、本当に理解してもらおうと思ったら、かなり専門的な内容(その多くが理科的な内容)になってしまい、理解できる人が限られる

・家づくりに関する「適切な情報、正しい情報」が欲しいと思って勉強する人は多いが、結局のところ「どの会社を選んだらいいか?」という情報が欲しい人がほとんどだし、そう考えるのは正しい

・しかし、たとえば静岡県東部で「どの会社を選んだらいいか」ということを、根拠を持って言える人や会社は存在しない(そういう人や会社になるためには、現場に行くことも含めて膨大な情報を集めなければならず、存在することが基本的に厳しい)

このコラムがうまく書けなかったのは、(忙しいということもありましたが)こうした問題の解決方法を見出せていなかったからです。本の執筆に向かうときにも、いつもこの悩みを持ちながら書いていました。「でもまあ、何かのお役には立つだろう」と。

私は「全体」がわからないと「部分」に向かえないタイプです。そしてその態度はほぼ何ごとにおいても正しいと思っています。住宅という分野で、一貫して「環境負荷の少ないもの、持続可能なもの」の普及を目指して仕事をしてきたわけですが、その成果を上げるためには「家に必要な要素の全体」をつかむことはもちろん、「家というものの本質」を探りつつ、「住宅業界の様子」「工務店というものの特質(何が好きで何が嫌いとか、何が得意で何が苦手とか)」「提供している技術の実際」「家を建てたいと考える一般の人の感情」などなど(実際にはもっともっとたくさんある)のことについてつかむことが必要でした。そして、そういうことがわかればわかるほど、先に上げたような悩み(うまく情報提供できないというジレンマ)が深まっていきました。

おそらく、これからもこのジレンマの答えは出てこないと思います。家の費用がもっと安くて、人生で何回も建てることができるのならこうしたジレンマに悩むこともないのでしょう。そしてきっと、真面目な家づくりをしている工務店ほど、私と同じような悩みを抱えているんだと思います。

 

本当は必要な理科の知識

家づくりは美学、心理学といった分野から人間工学、生物学、物理学といった理系分野にまたがるようなものづくりです。

この中で、美学(美しい家、かっこいい家)、心理学(落ち着く空間、好みの素材)、人間工学(使いやすい間取りやキッチン)といった分野は、ほとんどの人が経験的に「こうすれば良くなる」ということをなんとなく知っています。だからこうしたことが「どんな家にしたいかを考え、会社を選ぶときの中心的な視点」になるし、施主の側から意見や希望がよく出るものです。

一方、生物学(木材の劣化、シロアリ対策)や物理学(地震に強い、熱をコントロールする)といった分野では、理科的な理解や知識が必要になってきます。そして、講演などをしていると、住宅建築のプロも含め、こうした分野に対して苦手な人が多いということを痛感します。そして厄介なことに、住宅を含む建築物の質を決めるベースになっているのがこうした分野です。

こうしたことがわかっている会社は、苦しみながらも理科的な理解や知識を深めるための勉強を続けます。本来は、そうした会社が評価されるべきなのに、「美しいデザイン、良い空間、使いやすい間取り」といったことへの取り組みを強くアピールする会社が選ばれる傾向にあります。営業がうまい会社は、理科的な勉強よりもお客さんの心理を学ぶ勉強や実践に熱心です。ものづくりとして本末転倒だと思います。

こうした背景を考えようとすると、この国の理科教育に思い至ることになってしまいます(物理の教師をやめた私が言うのもおかしいかもしれませんが)。国全体の理科的リテラシーが向上すれば、まっとうな家づくりをする会社が増え、そうした会社が選ばれ、心地よく、長持ちする家が増えていくのになあと思います。なので微力ながら、私は「住宅建築実務者向けの理科の学校」みたいな場をつくり、30年以上にわたって家づくりに関わる理科的知識を伝えてきました。そうした場に来る人たちの顔は、私には「本来のプロ」の顔に見えます。こうした人たちが「21世紀の住まい」を担っていくことを心から願います。

 

オーソドックスがイチバン

プロの人から「ウチはこうしたシステムを取り入れるのが基本であり、特徴です」というような話を聞く機会がとてもたくさんあります。そのとき、いつも私は「面倒だな」と感じます。もちろん例外もありますが、「基本的な理科的原理を理解せず、そのシステムに盲信している人や会社」であることが多く、そのシステムの問題点を指摘したり、何かを質問したりしても、まっとうな意見が返ってくることはほとんどなく、不毛な会話が続いてしまうからです。

家づくりは膨大な知識や技術の集合体であり、さらに経営のためには営業的な努力もしなければならず、新しいスタッフのリクルートや教育もしなければならず、工務店というのは本当に大変な業種だと思います。だから「この部分は(たとえば骨組みとか断熱とか暖冷房装置とか)他の会社がつくったシステムに頼ろう」と考えたくなる気持ちもわかります。でも、そうした方向に進んでしまう会社の多くは、誠実にそのシステムを評価しているとは感じられません。本来であれば、たとえば耐震性を上げるための原理や技術を理解しつつ「これだけの耐震性を確保したいけど、その作業を自分の会社で行うのは効率が悪い。だからこのシステムを使おう」と考え、選択すべきです。

しかし、そうした原理や技術をしっかり学べば「国や大学の研究者から提案されている一般的な方法が最良だ」と気がつくことがほとんどのはずです。そうした家づくりを一言で表現すれば「オーソドックスな家づくり」です。

先程ご紹介した「住宅建築実務者向けの理科の学校」に通ってくるような会社は、遅かれ早かれ、そうした家づくりに進んでいきます。

 

環境問題

地球温暖化のことや、最近話題となってきたプラスチックゴミの海洋汚染問題などのニュースを見ると暗い気持ちになります。環境問題の厄介さは、原因がごく限られたところにはないというところです。日々の、それぞれの小さな人間活動が集積することで起きているので、それを解決するには、日々の、それぞれの小さな人間活動を見直すことに立ち返らないといけないところが本当にとても難しい。

でも、何とかしていかないと、我々日本人のこれからの世代や、我々には見えていない地域の人たちが大きな苦労を強いられることは間違いありません。そして悲しいことに、これまでの歴史で、そうした苦労はもっとも「弱者」にしわ寄せが来ることがわかっています。

言い古されてしまって、もうあまりインパクトがないのかもしれませんが、改めて「環境に負荷が小さい、持続可能性の高い住まい」をもっともっと真剣にみんなで考えていく必要があります。

既存住宅をどうするか?

残念ながら「家でさえあればいい」という時代があり(それは仕方のないことです)、そうした住まいは様々な問題を抱えています。超高齢化社会がますます現実のものになり、単身の高齢者などは、劣悪に近い環境で、地震などへの不安を抱える自分の家を改善すべき手がかりさえないのが現実だと思います。賃貸住宅であればなおさら厳しいでしょう。

こうした社会的大問題を解決する主役は政治なのでしょうが、政治は仕組みをつくるだけであることがほとんどで、既存住宅を適切に改善していく技術をサポートするという発想には乏しいというのが実際です。例外的に技術をサポートするような講習会を国主導で実施することもありますが、私から見ると、住宅建築実務者の実態がわかっていない内容になっています。

既存住宅の本質改善に向かう技術を、建築技術者自らが進化させる。私は、このアプローチしかないと思っています。この目標を達成しようと団結する何らかの集まりが生まれてくればうれしいのですが…。

 

 

最後にもう一度、21世紀の住まいのこと

・そこに住み続けたいと思い、実際に住み続けられる住まい。そのためには、家そのものだけではなく、地域のことも考えないといけない。

・使う材料の環境負荷が小さく(一戸建て:国産材・地域材・自然素材を中心とした木造住宅、集合住宅:大都市圏中心部以外はそうした低層の木造住宅)、暮らすときに必要な人工エネルギー(電気、ガス、灯油)が最小限で済む住まい

・こうした住まいの実現に向かう意識と、総合的な技術を進化させていく実践力が高いつくり手がこれを支える.

21位世紀の住まいを目の前にして、みんなが目標に向けて答えを出していく

そんな姿を楽しみにしています。

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Posted by sample5 2019/08/07/水 01:33 pm Category:野池コラム